日常では接することのない極低温の世界に初等科生たちを誘う。想像もできない低温の世界を探索(たんさく)する「低温探検隊」として実験に参加してどう感じるだろうか。

主に液体窒素を使う実験として下記9つのテーマを用意した。物理学科の実験系研究室に所属する大学生、大学院生がサポート隊員となって実験を行う。

1. すべてが凍る−196℃の液体: 身近なものを凍らす

ここでは液体窒素を満たした大きい断熱容器(だんねつようき)を用意した。容器の周囲には、やわらかいゴムやバナナのような植物などをおき、目についたものを液体窒素に浸して温度を冷やすことを体験する。

室温ではやわらかいゴム製品も低温になると脆性(ぜいせい)のため、すぐにぼろぼろになる。バナナなどは水分が凍るために非常に硬くなる。「バナナで釘が打てる」様は、1980 年代に自動車エンジン用潤滑油(じゅんかつゆ)のテレビコマーシャルで見たことを記憶している親父母の方が喜ばれるかもしれない。

2.液体酸素の色は?

液体酸素の色は空色、らしい。酸素の沸点は−183℃である。酸素を閉じ込めた透明風船を液体窒素に浸すことで容易に液体酸素が得られる。透明な風船に閉じ込められた酸素は−196℃の液体窒素によって凝集(ぎょうしゅう)され、液体酸素になる。実際に液体になった酸素は確かにほのかに青い。酸素分子は可視光(かしこう)のうち、波長の長めの光を吸収するので波長の短い青系の光が強調されるから、と説明されている。

図1: “液体酸素の色は?”の実験中

3.超伝導で磁気浮上

磁気浮上(じきふじょう)実験として有名である。液体窒素温度で超伝導(ちょうでんどう)になる酸化物超伝導体(さんかぶつちょうでんどうたい)の発見とその後の研究によって容易になった実験である。超伝導という物理現象は電気抵抗がゼロ、ということに加えて、完全反磁性(かんぜんはんじせい)を示すことが知られている。超伝導体内部には磁力線(じりょくせん)は侵入できないということである。この結果、超電導体と磁石のあいだには反発力が働く。この性質と「ピン止め効果」と呼ばれる磁力線を固定する効果を利用して磁石を超伝導体の上に浮かせる実験を行う。室温において(つまり超伝導になっていない)、磁石を上に乗せた試料を液体窒素に浸す。試料全体の温度が下がり、超伝導転移温度より低くなると静かに磁石が浮く様子が観測できる。液体窒素が蒸発しつくし、試料温度が上昇すると、それまで浮いていた磁石は静かに着陸する。初等科生徒らは、磁石が浮いている様子を横から見て試料と磁石の間には何もないことを確認しよう。

4.液体酸素は“磁石にくっつく”!?

酸素には磁性(じせい)がある。つまり、磁石に引き寄せられる。大気中の酸素は希薄(きはく)であるので普通には酸素の磁性を見ることはないが、液体窒素を満たした容器の周りに凝集(ぎょうしゅう)する。液体酸素の滴(雫?)(しずく) は机の上に落ちると転げまわりながら蒸発する。

図2: “超伝導で磁気浮上”の実験の様子

図3: “超伝導で磁気浮上”.磁石が浮いている様子


この酸素の滴に磁石を近づけて、確かに酸素が磁石に吸いつけられることを観察する。

5.酸素を“採集”しよう

窒素で満たした金属容器の周りには空気中の酸素が凝結(ぎょうけつ)する。凝結して液体になった酸素はぽたぽたと滴り落ちる。これを丁寧(ていねい)に試験管で受け取り、液体酸素を収集する。試験管の温度が高いうちは、滴り落ちた酸素液滴(えきてき)はたちまち蒸発する。根気よく酸素が滴り落ちるのを待てば試験管の中は酸素濃度が非常に濃い状態になる。ここで、火のついた(炎は出ていない) 線香を差し込むと、たちまち勢いよく炎を吹き出して燃える。酸素が支燃性(しねんせい)の気体であることがわかる。小学生の理科では、酸素は「過酸化水素水(かさんかすいそすい)と二酸化マンガンの反応により発生」、と習うのであるが、まったく別の、低温物理学者ならではの方法で試験管に集めた酸素で、同じ現象を再現した。炎が出たときには「おおっ」と歓声が上がるだろう。

図4: “酸素の採集”の実験の様子

6.フィルムケース,ポン!

一般に液体から気体に変化すると体積が増大する。つまり、気体での密度は液体でのそれと比較して小さい。窒素の場合、体積は約700 倍に増大する。わずか数ml の液体窒素をビニル袋に入れ、すばやく口を閉じる。窒素はたちまちのうちに蒸発し、体積が膨張する。ビニル袋がみるみるふくらみ、ついには破裂する。パンッという音に驚くが、風船が膨らみ、破裂するという現象を見て、実際に体積が増大することを実感するだろう。

7.風船の奇妙なふるまい!?

6 の逆の実験である。気体から液体になると体積が減少する。酸素の沸点は窒素のそれより高い(−183 ℃) ので、酸素で満たした風船を液体窒素バスに浸すとみるみる体積が減少し、ついにはぺちゃんこになる。気体として存在できないのだから圧力に寄与する酸素ガスがなくなり、大気圧によってつぶされたことを意味する。

図5: “酸素の採集”の実験.線香に火がついた

クライオポンプ効果として知られる現象である。ぺちゃんこになった風船は液体窒素バスから取り出してしばらくすると、室温に戻る。液体であった酸素は気体に戻り、元通りの大きさの風船に「復活」する。風船の中身を沸点の低い気体、たとえば窒素で同じ実験を行うと、体積は減少するのだが、ぺちゃんこになることはない。酸素と窒素やヘリウムの沸点の違いを利用した実験である。ぺちゃんこになった酸素風船が、室温に戻ると復活するさまを観察する。

以上、「低温の世界の不思議」で行う液体窒素を使った実験を紹介した。「低温探検隊」として、想像したこともない低温の世界を御父母たちも一緒に楽しむことができる。各担当者らが事前に行った予備実験と、工夫を凝らした実験内容案内ポスターもあるので十分に楽しめる実験である。

液体窒素は大気圧のもとでは−196 ℃で常に沸騰(ふっとう)している。その温度はドライアイスよりも低く、直接皮膚に触れると低温やけどを起こすことに注意をしたい。

図6: “風船の奇妙なふるまい!?”の実験の様子