研究内容

我々の研究室では、光や遷移金属化合物の特性を活用し、有機化合物の合成に役立つ革新的手法の開発を主題として日々研究に取り組んでいます。特に、高反応性の化学種を発生する新しい手法の開拓とこれを活かした新形式の反応開発、従来は多段階の工程を要した分子変換を単段階で実現可能な高効率的な反応の開発を目指しています。また、我々独自の反応を活用して、生理活性物質等の効率的な全合成研究も展開します。

最近の研究成果

アシルシランの光異性化を利用した新規分子変換手法の開発

炭素の二価化学種であるカルベンは、様々な有機合成反応に利用可能な高反応性の化学種です。カルベンの生成手法には既に様々な手法が報告されていますが、その一つとしてアシルシランの光異性化によるシロキシカルベンの生成が知られています。

 

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この手法は、アシルシランに室温・中性条件下で適切な波長の光を照射するだけで簡便にシロキシカルベンを発生できるというもので、様々な有機合成反応に利用可能と期待されます。しかし実際には、有機合成において最も重要と考えられる炭素–炭素結合形成反応にこのカルベン生成手法が活用された例はほとんど知られていませんでした。そこで最近我々は、アシルシランの光異性化により生じるシロキシカルベンを利用した新しいタイプの分子変換手法の開発を目指して、様々な研究を展開しています。

 

1)有機ホウ素化合物とのカップリング反応

アシルシラン1とボロン酸エステル2のほぼ1:1混合物に対し、室温で光照射を行うと、両者がカップリングした生成物が高収率で得られることを見出しています。生じたカップリング生成物3は、空気中で酸処理を行うことで対応するケトン4へと変換可能です。この反応の基質適用範囲は広く、種々の置換アロイルシランやアルキル置換アシルシラン、さらにアリール、アルケニル、アルキル置換ボロン酸エステルが利用可能です。

 

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この反応は、取り扱い容易なアシルシランからのカルベン生成を利用する新しい炭素–炭素結合形成反応であり、遷移金属触媒を用いずとも、中性、室温という穏和な条件下、光を照射するだけでカップリング反応が進行し、多様な非対称ケトンを効率的に合成できる点が特徴と言えます。

 

2) この他の研究成果についても順次公開していく予定です。